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第1話「リンお姉さん、現れる」(2)

まばゆいばかりの日差しが照りつける、ミクやレンたちボーカロイド一家たちの住む家の庭。その片隅を、一人せっせと草むしりに勤しむ巡音ルカの姿があった。

作業に適さないのもあり、纏っているのはお馴染みの黒を基調としたチャイナドレスのようなデフォルト衣装ではなく、白い半袖のシャツに青いジーンズという非常にラフなものだった。

――今日は天気もいいし、今のうちに片づけておかないとね。

ここがPCの中に構築された世界とはいえ、現実の世界と同じように天気が良い日があれば雲に陰る日もあり、雨嵐に荒れる日もある。幸いにして今日は晴天だ。

それなりの人数が住まうボーカロイドたちの住まい。その家屋面積は決して小さくはない。さらに言えばそんな家の庭も、決して小さいと言える規模ではない。放置してると草花が伸びて庭も荒れる。日頃のマメな手入れが肝心だ。その手入れを行うのはルカの仕事の一環でもあった。

「手伝おうか、ルカ姉」

そんなルカの背中に、気だるげな声がかかる。

振り向いたその目の前に、ミクの姿があった。

「アンタ、リンの収録の見学に行ってたんじゃなかったの?」

「休憩に入ったっぽくてね。付き合っても良かったんだけど、年寄りが出しゃばるのもなんだから、やっぱりやめたよ」

「あのな、アンタで年寄りなら私は化石になるわよ……」

「やー、こまけぇこたぁいいんだよ」

公式設定が16歳のボーカロイドに年寄りを自称されては20歳のボーカロイドはどうなのか、といった処ではあったものの、そこは細かい処として片づけられるものらしい。

ミクはルカの隣へと腰を降ろした。

手にはスコップと小型の鍬とビニール袋が握られていて、用意周到だ。どうやら最初からそのつもりで来ていたらしい。

「何度言われても慣れないもんだよねぇ。大きいほうのリンに「ミク姉」呼ばわりされるのは」

「仕方ないでしょ。中身はいつものリンなんだから」

「そういえばさ、レンは多分初めて見たんじゃないかな」

「ああ、リンがあの恰好で歌ってるのを?」

「そうそう、あと、絶対アレは正体がリンだっての気付いてないよ。もう笑えるのなんの。ガッチガチに緊張しちゃってレンらしくないっていうか」

「ふーん、レンも会ったんだ?」

口ばかり動かしていても仕方がないので、止めていた作業の手を動かしながら、ミクとの話を進めていくルカ。

ミクも、手に持った鍬で草花を掘って摘み取っていく。

笑い種にしてやるのも酷いとはルカの中でも刹那的に考えたものだが、しかし笑いたくもなる。憎まれ口の叩きあいをやっているリンに対して、レンが正体を知らないとはいえ緊張して調子を狂わせるなんて光景を想像するだけで、可笑しくもなるものだ。

「レンってさー、とくに年上かつ年の離れた女にメチャクチャ弱いからねぇ」

「それなら私はどうなのよ?」

「やー、ほら、ルカ姉は凶暴だからむしろ恐怖を通り越して……アイタッ!」

軽口を叩くミクの額を、ルカが軽く引っぱたく。

「やー、うん。真面目に言うと同じクリプトン一家のボカロとして姉にあたるようなものだから大丈夫なんじゃないかな」

「最初からそう言え」

「それにしても、レンがあの子の正体に気付いた時の反応とか、想像したらメチャクチャ面白そうなんだけど」

「リンは……あの子の性格上、自分からは絶対に話さないでしょうね」

「ルカ姉もバラしちゃダメだよ。とくにレンには黙っておいたほうが面白そうだし」

「アンタ、さり気無く酷いわよね。まあ、いいんだけど」





「レン君ってさ、物知りなんだってね」

「レンでいいよ。その呼び方はなんだかこそばゆくて嫌なんだよ」

リンの面影を持った、もとい大きくなったリンに促されるまま、レンは台所でテーブルに向かい腰かけていた。

「くつろいでていいよ。コーヒー淹れてあげる。インスタントだけど」

くつろぐ……という気分にはならない。なんといっても、収録の場で初めてその姿を目にしてからというもの、妙に胸が高まって仕方がなかった。

――こういうときにミク姉が一緒にいてくれたら違ったんだろうけど。

しかし彼女はあいにく庭でルカと草むしりに勤しんでいる最中だ。そんな姿なぞ知る由もなく「眠いから昼寝する」という適当な理由で逃げられたと信じ込んだレンは、勝手気ままなミクの行動を僅かばかり恨んだ。

「ああ、やっぱりオレがやるよ。やってもらうの、なんだか申し訳なくて」

レンは立ち上がって代わろうとしたが、

「いいよ、たまにはアタシがやってあげるから」

「たまには?」

「あっ!? よくミク姉に淹れてもらってるから、たまにはアタシが誰かに淹れてあげたほうがいいかな~~~なーんて」

乾いた笑いを浮かべつつ、リンは手早くティーカップに材料を用意していく。

押し止められ、レンはそれ以上出ることはなく、彼女の言葉に甘えることにした。

――そういえば、こういうときにリン相手だとこっちがよく淹れてやってるんだよなぁ。

基本的にいつものリンの場合であれば、自分でやらずにレンにやらせてくるのが殆ど。レンもどちらかというと、される側という立場は落ち着かない。

「ミク姉も一緒に来ればよかったのになぁ。残念」

レンは溜め息交じりに告げる。

「うーん、でもミク姉はそういう人だから。ほら、できたよ」

リンの手から受け渡されるティーカップを受け取り、それをテーブルに置くレン。

「リンなら絶対に自分でやろうとしないのに、なんだか調子が狂うね。アイツものぐさでやらないから当たり前みたいにオレにやらせてくるし、ガキじゃないんだからそれくらい自分でやれっての」

「んだとコラ」

一瞬、カップを持つ彼女が額に青筋を浮かべたような気がしたが気の所為か。「えっ?」と首をかしげかけたレンを前に、しかしすぐに「どうかした?」と怪訝な顔。

「そういえばさ、ミク姉とはもう知り合いみたいだけど、付き合いって長いの?」

「そんなに長くないよ。知り合ったのはそんなに前じゃないからね」

リンはあっさりと返し、椅子に腰を降ろした。

カップを手にしたのはいいが、まだ口に運んではいない。リンがまとめて用意した自身の分のコーヒーを啜ってないからだ。淹れてもらっておいてさっさと飲むのも行儀が悪い。遠慮と礼節からレンは彼女が先に手をつけるのを待っていた。

「そういえば、レンって聞く処によるとアタシたちボーカロイドのパラメータのこともよく知ってるんだって?」

「よく知ってるってほどでもないけど……」

リンやGUMIたちからは頼りにされてるけど、と付け足そうとしたが、わざわざ言うほどのものでもないかとレンはそこで押し黙った。

「アタシ、よく破裂音がうるさいって言われるんだけど、これどうしたら治るのかな?」

どこかで訊いたような質問だな、とレンは訝しんだが、すぐにその気持ちの正体を突き止める。食後のタイミングでリンから受けた質問と全く同じだったのだ。

姉妹揃って同じことに悩むのか、といったところだが、生憎目の前の女性と鏡音リンとは同一人物である。しかし当のレンはそんなことなど知る由もない。姉妹で似るところが似てしまって大変だなという想いが脳裏を掠めたくらいである。

「DYNってパラメータは知ってる? 例えば破裂音が生じる子音「カ行」や「タ行」の64部音符手前を0に削ってしまえば解消できるんだけど……」

昼下がりの食後のリンでのときにはググレカスとばかりに突き放したのだが、今回驚くほど素直にすらすらと解決策を教えてしまったことに、話しながらレン自身少し驚いていた。

「まあ、マスターがDAWでMIXかけるときに波形を見て巧く削ってくれても良いとは思うんだけどね」

「ふーん、凄いね、レンって。よく即座に解決策がわかるよね」

リンは頬を緩ませ、視線を天井に泳がせながら感嘆に声を上擦らせる。

彼女は手にした、カップに満たしたコーヒーを微かに啜り、

「ありがと。なんとかできるように頑張るよ」

さらに満面の笑みを浮かべて付け足し、レンを見つめた。

同じくカップに手をつけていたレンの手の動きが、止まる。

「どうしたの、さっさと飲まないと冷めちゃうよ?」

「あ、いや、なんでもない……」

先程から遠慮に奔って一向に口をつけないレンを訝しんだのだろう、リンが少し上目遣いに促した。

――どうも調子が狂うな、さっきから。

ミクや本来のリン、GUMIたちとはいつも通りの調子で話ができたが、巧くいかない。

初対面の相手を前に僅かばかりの緊張こそあるのやもしれない。しかし、それとも少し違った感覚。

カップを持たないもう一方の手で髪を掻きながら、レンはリンから目を逸らす。

「レン、熱でもある?」

そんなレンの額にかかる、人肌の感触。それがリンの掌だと気づくのに、刹那の瞬間もかからない。

「うおあっ……!?」

突発的な掌の肌触に驚きたじろいだレンの全身が身振い、イスごと後部へと倒れかかる。カップを握る手までもが大きくぶれ、カップそのものが宙を舞い、やがて中の熱い液体が服越しに胸元へと降りかかった。

「あっちちちち!?」

「た、大変! 冷やさないと!」

幸いというべきか、手がぶれたことで宙を舞ったカップはレンの胸元に落ちたので割れることは免れた。しかし転ぶだけでも痛いのに、そこに加えて淹れて大して間も空かぬ熱湯同然のコーヒーの威力は強烈だ。

リンは小走りで冷蔵庫に向かい、氷を掻き出してビニール袋に詰め、倒れているレンの傍らに駆け寄って患部へとあてがってくる。

「大丈夫? ごめんね、いきなり手を当てたからびっくりしたんだよね」

「大丈夫だよ、このくらい。ああ、氷を当てるくらい自分でやるから、いいよ」

その手元から氷袋をつかんで奪い取ろうとしたレンだったが、彼女はそれを拒み頑なに離さなかった。

「いいよ、たまには世話を焼かせて」

「たまには……?」

その一句に妙な引っ掛かりが生じたが、しかしリンはすぐに訂正する。

「ああ、い、いつもリンが世話になってるから、うん」

「いや、そんな言うほどじゃ……」

熱く湿った胸元を、急速に氷袋で冷やされていく。もんどり打ちそうになるほどの苛烈な熱さはもはやない。しかし一方で、締めあげるかのような奇妙な高揚感がレンの胸を急速に焦がしつつあった。

どこか、リンの面影を持つ姿の女性に介抱されている気分は悪くないものであったものの、胸の奥が高まって落ち着かない。

レンは別段、女性恐怖症とか異性に対して挙動不審に陥るような気質の持ち主ではない。ただ、年上の女性を相手にすると弱い面はあるものの。しかしそれを踏まえても尚、浮き立つような胸の感覚は異質なものだ。

なんだか気恥ずかしいような、こそばゆいような感じがして、相手を直視できない。

「服、汚れちゃったね。後で着替えないと……」

「落ち着いたら後で着替えるよ」

レンにとっては服が汚れてしまった事実以上に、リンの姉を自称する女性に気遣われ介抱されていることのほうが印象として勝ってしまい、二の次でしかなくなっていた。

「オレはもう大丈夫だから、氷、どけてくれていいから……」

そうでなければ、違う意味での熱さでどうにかなりそうだ。

少し乱暴に氷袋をぶんどろうとしたレンだが、やはり彼女はその手を離さない。しかも今度は氷袋ではなく、それを握る手を強くつかんでしまう至りとなってしまう。

「あっ……!」

驚きとためらい、困惑入り混じる声を発しながら、レンは即座にその手を引っ込めた。

「ご、ごめん、そういうつもりじゃなくて……」

「レンってば、驚きすぎ」

当のリンはといえば、大して動じている素振りもなく。ちろりと舌の先っぽを出して悪戯っぽく笑うだけだ。

結局、どう足掻いても手を離してくれそうにはなさそうだ。観念したレンは仕方なく抵抗をやめ、彼女の好意に甘んじることにした。

実際の時間としてはほんの少しのものかもしれないが、気恥ずかしさの伴った高揚感に包まれる今においては、その少しがとても長いものに感じられそうなものだった。

「お姉さんって、優しいよね、リンと違って。アイツだったら薄情だからこんなことしないだろうし」

「悪かったわね、薄情者で」

「えっ!?」

手厚く介抱してくれているはずの女性が、一瞬ドスの利いた声で脅してきたように見えたのはレンの錯覚か。

しかし現に目の前で腰を降ろして落ち着いている彼女の表情は、穏やかなままだ。

「そろそろ、大丈夫かな。ごめんね、レンの分、淹れなおすよ」

「ああ、う、うん」

ようやく氷袋を離してくれたのは良かったが、レンの胸は高鳴ったままだ。

「少し、着替えてくる」

このままでは調子が狂いっ放しだ。僅かでいいから頭を冷やす時間が欲しい。そう思い見たレンはリンの返事を待たずして台所から抜けだした。

手早く自室に行って着替え、服越しにコーヒーが染み付いて汚れた身体をタオルで拭き取り、脱いだ汚れた衣服を持って戻る。しかしその前に浴室前の脱衣所に行って洗濯に出すのを忘れない。

ふと、洗面台の鏡から自身の顔を覗き込む。顔に怪我をしているわけでもなく、至っていつものレンの顔がそこにあった。

だが、気分が妙に落ち着かないせいか、少しばかり曇って見えた。おまけに、よく見れば少し顔が赤い気もするのだ。

頭を冷やすという言葉の通りではないが、洗面台に屈んで顔を洗う。三度ばかり顔を洗って、その場を出て台所に戻る。

「おかえり。淹れといたよ」

リンがたおやかな笑みを浮かべて出迎える。

「ありがとう」

愛想もそこそこにお礼を言って、リンの座る向かいに、レンは改めて腰を降ろした。先程コーヒーをこぼしたときに床も多少なりとも汚れていたのだが、レンが席を空けている間にリンが片づけていてくれたのか、すっかり綺麗になっている。

既にリンが自身の分に口をつけているのは見ているので、手にとってカップの淵からコーヒーを遠慮なく啜る。淹れたてらしく熱い。

味は悪くなかった。淹れた当人の好みなのか、やや甘めではあったが。

「レンってさ、さっきアタシがレコしてるの見てたんだよね? 目が合ったし」

「ああ、うん。ミク姉と一緒に見てた」

「そっかー、じゃあ、話は早いね。なんならさ、別の曲でレンも一緒に歌わない? デュエットで」

「うぷっ……!?」

突拍子もないリンからの誘い。思わずレンは口に含んでたコーヒーを吹き出しそうになった。少しばかり気管に入ってしまい、むせ返る。

「な、なんだよ、藪から棒に……」

「いや、レンは博識だし、困った時に助けてもらえるかなーって」

あっけらかんと答えるリンは、むしろ少し楽しそうだった。

「オレじゃなくても……ミク姉のがむしろよく知ってるし、歌も巧いから、ミク姉を誘ったほうが……」

「うーん、でもミク姉はものぐさだから誘ってもやってくれそうにないし、それに、レンじゃないと意味がないし……」

――それって、どういう?

レンじゃないと意味がない、という言葉がレンの頭にひっかかる。その言葉の真意がわからない。いや、もしかすると好意的に見てるから一緒に歌いたいという意味なのではないかと都合の良い方向へ考えてしまう。

――い、いやいやいや、それはいくらなんでもない! 知り合ってまだ間もないんだぞ、それはない!

実際には目の前の女性は同じ鏡音の名を冠するリンなのだから、レンとは既に面識あるのだが、それは彼の知る範囲ではない。レンの中で、彼女はあくまでリンとは別人で、リンのお姉さんでしかないのだ。

「ね、いいでしょ?」

彼女は両手を合わせ、拝むかのように。ウインクも交えたその仕草に、レンは思わずドキリとして、

「わ、わかったよ。どこまで力になれるかわからないけど……」

半ば流されるような形で承諾してしまった。OKのサインが出たことを受け取ったリンは、

「ありがと。デュエット、楽しみにしてるね。マスターに言っておくから」

そう、満面の笑みを携えて応えた。

その顔を見たレンは、素直に可愛いと思った。





第1話「リンお姉さん、現れる」 -完-



↓追記にて、あとがき




如何だったでしょうか? SSっぽい文章に触れるのはかれこれ5年ぶりくらいで、いろいろ見にくく感じられる処あったかもしれませんが、生温かい目で見守ってやってもらえると幸いです。

さて、ボーカロイドの設定ですが、いわゆる「ウチの子設定」というやつを前提に当作品を描いております。

ボーカロイドはエディタ上でパラメータを弄って歌声を整えたり癖をつけたりするのが現実ですが、私の中ではそれをある程度、ボーカロイドたちが学習して自力で行っているという設定が組み上がっています。例として、私の投稿したミク作品がしばしばミクとは思えないくらいにパワフルだとは言われるのですが、これも私が全てコントロールしているわけではなく、私のPCにインストールされたミクが歌っているのを、少し調整(っぽいこと)してるに過ぎないという感覚です。あくまで私はボーカロイドが好き勝手に歌ったものを、聴きやすくなるよう手を加えているだけといったところに過ぎません。

あと、私はボーカロイドをそれなりにたくさん所持している自負があり、いわゆる「ボカロ大家族」状態なのですが、全てのボーカロイドたちが同じ処で寝食共にしている世界観ではありません。ある程度のグループを作って、別々に生活していて、仲の良い子同士だとグループの枠を越えてよく交流しているといった感じです。

その辺の話は、また話数を重ねて追々明らかにしていきたいと思います。今回はこれにて。

ご視聴ありがとうございました。


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TM box及びSoundCloudで細々とカバーもどきな作品創らせてもらってます。アイコンはNaiさんにお願いして書き下ろしていただきました。

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