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第3話「ボーカロイドの集い・カラオケ大会」(1)

「カラオケ大会ぃ~~~!?」

日が沈み、夜が始まりを告げる頃。ミクやリンたちクリプトン所属のボーカロイド家全体に響きそうな声が、その全ての始まりだった。

「そうっス。がく兄主催で、開催は1週間後。トーナメント形式で好きな歌を歌って競うものっス。ボーカロイドっていうのが参加条件なんスけどね。その中で優勝したボカロには、現金1万円と高級和牛2キロをセットでプレゼントらしいっス」

「なんだか景品がケチくさいわよね。和牛2キロは嬉しいけど、現金1万円って一ヶ月の食費の半分も賄えないわよ……」

意気揚々と説明するのは、インターネット社製ボーカロイドのGUMIだった。

傍らでミク、ルカ、リン、レン、妹ルカの5人が聴き入っている。とはいっても、ミクだけは隣のリビングで胡坐をかいて座り、ボリボリと尻をかきながらテレビに見入っていたのでとても聴いている状況とは言い難い。真面目に聴いているのは残るルカ、リン、レン、妹ルカくらいのものだろう。

4人とGUMIは台所のテーブルを囲んで座っていた。

「ちなみに参加は強制じゃないらしいから、出たくなければ出なくてもオーケーらしいっス。でも参加費は要らないし、ボクたちボーカロイドが一同に会せるには良いイベントだとは思うっス」

「ルカ姉はどうする? 出る?」

ルカの向かいに座っているレンが尋ねた。

「もちろん参加するわよ。現金はともかく和牛2キロは滅多とありつけぬご馳走よ」

「ミク姉はー?」

「めんどくさいからパス」

リンからの問いかけに、欠伸混じりの返事が飛んだ。

「まあ、姐さんは仕方ないっス。参加して欲しいけど仕方ないっス」

溜め息交じりに苦笑いを浮かべるGUMIは諦めているといった様相だ。ミクはものぐさで、ボーカロイドなのに歌うのを好まないことはGUMI自身にもよくわかっている。

「一応、ボクたちインタネボカロの間では、ボクとLilyは出るっスよ」

「げ、Lily姉出るの……?」

リンの顔が少しばかり強張る。

「あー、最近、思い切り歌える機会が少なくてフラストレーション溜まってるからってことで意気込んでたっスね、Lilyは」

「リンにとってLilyは恋敵だもんねぇ……」

「誰が恋敵よ!」

涼しい顔で呟いたルカに、リンが語気を強めて抗議した。

「妹ちゃんはどうするんスか?」

「姉さまが出るなら私も出ます!」

「あら、もしかしたら私たち姉妹で対決なんてこともあるかもね」

「そのときはお手柔らかにお願いします、姉さま」

「妹ちゃんは小さいけど、潜在能力は姉勝りだからナメられないんだよね」

とは、大会に向けての話を進める5人に背中を向けたまま、相変わらず尻を掻きながらテレビを眺めているミクの台詞だ。

「小さくないです!」

今度は妹ルカが小さいという言葉に反応して語調を強め反論した。

「あとはレン君だけど、どうするっスか?」

「リンもルカ姉も妹ちゃんも出るのにオレは出ないってわけにいかないだろ。ルカ姉がケチくさいって言ってる賞金だって、手に入れたら使い道がないわけじゃないしな」

「私だけは出ないけどねー、みんな頑張って」

「アンタは一遍死ね!!」

「決まりっスね」

他人事の如く適当に手を振って鼓舞とも嫌味ともとれる真似をしでかすミク。それに対して怒るルカを尻目に、GUMIは手を叩いてこの話の進展を喜んだ。





「よーし、出るからには優勝するわよー。目指せ、高級牛肉2キロ!」

GUMIが帰った後の台所でルカが意気揚々と宣言した。

「姉さま、賞金1万円を忘れていませんか」

「気になったんだけどさ、レン。なんで賞金は微妙な金額なんだろうね? いや、小遣いとしては有り余るくらいだけど、こういう大会だと普通10万円くらいじゃないの?」

「優勝した人の家庭での内輪モメを防ぐためだろ。牛肉2キロは生モノだし一人で消化できる量じゃないから優勝したボーカロイドの家庭みんなで仲良く食べるってことができるけど、お金はあまり高額にすると嫉妬や顰蹙買う恐れもあるからな。かといって仲良く山分けができる保証もない。線引きは難しいけど、一人で使うのに多過ぎず少なすぎずくらいの金額設定にしたんだとオレは思う」

「さすがレン。鋭い、で、出るからには優勝狙いなんでしょ?」

「どうかな? 多分、ピコ君とか花ちゃんとかも出てくるだろうから、あいつらと会う機会が欲しいってのが大きいかもな。そういうリンはどうなんだよ? お前負けず嫌いだからやるからには優勝って感じするけど」

ピコも花ちゃんも、レンの友人だ。会おうと思えば気楽に会える間柄ではあったが、やはり個別に会うのと、イベントで時間を共有し合うのとでは事情が違う。

「当たり前でしょ! やるからには全力全開! 賞金1万円、ゲットだぜ! でもLily姉は潰す! 全力で潰す!」

「お前やたらLily姉を敵視してるよなぁ。気楽にやったらいいと思うぜ? Lily姉だって意気込んでるとは聞いたけど、多分お前ほど敵視してこないだろうし」

「ふーん、レンはLily姉の肩を持つんだ? レンって、ああいう人が好きそうだもんね」

「ちょ!? なんでそういう話になるんだよ!? そりゃLily姉は綺麗だと思うけど、そういう話になると事情は違うって」

「へー、じゃあ、どう事情が違うっていうの?」

「Lily姉は普段はアレだけど、歌うとかっこいいじゃん。絵になるじゃん」

「もういい、そういう話をしたアタシのがバカだった」

リンは粗暴な足取りで台所を去って行った。

「なんだよ、思う処をそのまま言っただけなのに」

訳もわからぬままに一方的に不機嫌になられてはたまったものではない。理不尽にも感じるリンの言動や行動にレンも少々不愉快に感じながら、つられるようにその場を出た。





「姉さま、ミク姉さま、私は湯浴みをしてきますね」

それまで皆の雰囲気に任せて大人しくしているだけだった妹ルカが、すっくと椅子から腰を上げ、二人に軽く一礼をして出て行った。

リンとレン、妹ルカがその場を去って、台所にはミクとルカ、2人取り残される。

「こりゃ荒れそうだね」

床に落ちていた孫の手を拾い上げ、背中をボリボリと掻きながら、ミクは無気力な声で口火を切った。

「まあ、リンにとってLilyは恋敵みたいなものだからね。ちょっとイビツではあるけど、あの子もレン大好きだし。まあ、Lilyはそこまで敵視してないでしょうけど」

「Lilyには余裕があるからね。多分あの調子じゃ、仮にあの2人が対決しても、リンに勝ち目はないんじゃないかな」

それにLilyは歌唱力に折り紙つき、鏡音リンにも負けず劣らずの屈指のパワーを誇るボーカロイドとしても名高い。

――仮にリンが冷静に歌ってても、Lilyに少し分がありそうなもんだけどね。

この世界におけるLilyは少々、頭のネジが飛んだ問題児であるものの、こと本気で歌ったときの実力においては間違いなくボーカロイドの中でも最上位クラスに入る。リンが恋敵として執念を燃やす相手ではあるものの、歌唱力で勝っていればここまで敵視はしていない。

ミクはリンの実力を認めていた。リンからは「ミク姉には敵わない」と言われもするが、ミクからすればリンの情緒豊かな歌唱は大いに魅力的であり、自身の欠点として自覚している処でもある。しかし精神的に未熟な故か、その感情表現を意のままに歌に乗せられないことがリンの欠点でもあった。

「っていうか、いっそアンタも出なさいよ。アンタが出てあの2人倒して優勝かっさらえばわりと丸く収まるんじゃないの? アンタならLilyにも勝てるでしょ」

「やー、私は聴き専ですからなぁ」

「ボーカロイドであることを否定しやがった。ダメだコイツ……」

歌わないボーカロイドなど存在意義が大きく揺らぎそうなものだが、それを体現するのがこの初音ミクなので仕方がない。
ルカは大きく肩を落として嘆息した。





1週間後の、時刻がAMの9時前に差し掛かった頃、ミクたちの住まう街から車で1時間程度の場所の、とある廃校舎。
その体育館を借りて、大会は執り行われる。

郊外というより、田舎に存在する、かつて小学生たちの学び舎として機能していたものだったが、過疎化によって児童数の減少に伴い廃校。現在は校舎の一部を改築してイベントなどの為に安価で貸し出すというサービスを行っていた。

この大会、選手としての参加条件はボーカロイドであることだが、会に集って観客として楽しむだけならば、選手たちの知人に限って参加できた。

普段は別々の住処で各々が異なった時を過ごしている数々のボーカロイドたちだが、このときばかりはその皆が一同に集う。

数にして30人程度。大会というには小規模なもの。どちらかというと、目的も競いあうそれよりは、宴のようなノリに近い。

会場内にはテーブルと、それを囲うかたちでイスが用意されている。イスはおおよそ人数分用意されているものの、大人しく着席している者の姿がいれば、立って知人友人同士で談笑している者など、さまざまだ。

「こんにちはー」

先日にGUMIから受けた案内に従ってやってきたルカ、リン、レン、妹ルカたちが会場として設営された体育館内へと姿を現す。

会場には既に先客がたむろしていた。そのうちの1人がルカたち一行の姿を見るなり、尻尾を振った犬のように駆け寄ってきた。

「待ってたっスよ、クリプトン一行……って、姐さんの姿が見えないんスけど?」

そう、ボーカロイド界屈指のアイドルと名高い初音ミクの姿だけはそこにはない。

「ミク姉さまなら、ここにつくなりお腹が痛いということでトイレに走っていきました」

妹ルカが、あっけらかんと返答する。

「さすが姐さん、やることがワイルドっス」

アイドルともされるものがイベント会場につくなりトイレとは品もあったものではなかったが、そんな姿もGUMIには素晴らしいものに映るようだ。彼女はグッと拳を握り、声のトーンを上げてミクの奇行を称えるのだった。

「いや、ただのアホでしょ」

「ミク姉、昨夜にお腹が空いて眠れないからって脂コテコテのラーメン食べてたからねぇ。多分今になって利いてきたんじゃないかなって思う」

ルカ、リンが続けて端的に感想を述べる。

「まあ、ミク姉らしいや」

レンも安堵の気持ちで息をついた。

「そういえば、Lilyは? あの子の姿が見えないわね……」

「ルカ姐さん。後ろ、後ろっス」

「え……?」

言われてルカが振り向こうとした矢先、

「レーーーンーーー!!」

と、黄色い声を轟かせながら傍らの少年に抱きつく人影があった。突然のタックル同然の強烈な抱擁をしたたかに喰らい、悲鳴と共に成す術なく捕獲されるレン。

「ちょっと、Lily! アンタ、いきなりレンに何をタックルかましてんのよ!」

怒声張り上げたのは、レンの真横に立っていたリンのほうだ。

「タックルぅ? 待ち焦がれたお姫様が、ついに現れた愛しの王子様に熱い抱擁をかわしているのよ。お子様にはわからないかしらねぇ、リン?」

「テメェのような肉食系のお姫様がいるかぁーーー!!」

Lilyはしなやかな身のこなしでレンの後ろへと廻り込んで、こう囁いた。

「おー怖い怖い。今日はお姉さんがレンを悪い魔法使いから救い上げてあげますからねぇ」

「その言葉そのまま叩き返してやる!」

けたたましく罵り合う二人の一方で、Lilyに抱きすくめられたままのレンはたまったものではない。なにしろ、身長はLilyのほうが高いのもあって、後頭部に2つの柔らかい感触が来ているのだ。気が気ではない。

「リ、Lily姉……胸が、胸が当たってる……」

「お・バ・カ・さ・ん。当ててるのよ」

Lilyは湿っぽい声でささめいた。

「この破廉恥女! さっさとレンから離れろ!」

「破廉恥で結構。それじゃ、相方さんのヤキモチに免じて挨拶はこのくらいにしておくわ」

「誰がヤキモチよ!」

ようやくLilyの強烈な抱擁から解放されたレンが、両手をついて跪く。

Lilyと顔を会わせる度に受ける文字通りの挨拶代わりの行為だったが、レンはこれが大の苦手だ。何度やられても慣れられるものではない。

「Lilyさん、私にもやって欲しいです」

と、しゃしゃり出てきたのは妹ルカだ。

「はーい、妹ちゃんもぎゅー」

Lilyはすんなりと応じて小さな巡音ルカの身体を抱きしめた。

「アンタ、相変わらずねぇ……」

「ルカ姉さんもお元気そうでなによりだわ。ルカ姉さんも出るんでしょ?」

「当然。目指すは優勝して牛肉は頂いて帰るわよ」

談笑をはじめたルカとLilyの傍らで、新たに近付いてくる人物の姿がある。

「よぅ、兄弟。相変わらず女難だねぇ、ははは」

気取ったように髪を掻きながら、彼は腰を降ろして跪いたままのレンに話しかける。

「言うなよ、ヒオ兄。巻き込まれるほうはたまったものじゃないって」

「ピコと花も来てるんだ。たまには男四人、水入らずでじっくり話しようや」

「え、あ? やっぱりあの二人も来てるんだな」

ヒオに肩を叩かれて、レンは腰を上げて促されるままに連れて行かれる。

向かう先には、友人のピコと『花』の姿。二人して笑顔でヒオとレンを迎えてくれた。

「レン、久しぶり」

花が、少しあどけない素振りの笑顔で話しかける。

花と呼ばれた人物は、長い髪をくくり、紫苑色のドレスに身を包んだ一見少女のような姿をしていたが、彼はこう見えても少年だった。レン、ピコとは遊び仲間でもある。

「久しぶりだね、花ちゃん。元気そうでなにより」

「うん、レンも……元気そうで嬉しい」

彼はいささかはにかんだように、下を向いて頭をかく。あまり多弁な人柄ではないのだろう、声は少し低めで強いものではない。レンを引っ張り出してきたヒオとは対照的だ。

「レン君、君も出場するんだろ?」

ピコが、口元を緩ませ微笑みながら問いかける。

「まあね。ピコ君も出るんだろ。お互い勝っても負けても恨みっこなしだからな」

どちらからともなく拳を出して、コツリとぶつけ合う。

「それとレン。風の噂で聞いたんだが、お前、好きな人ができたって本当か?」

「ぶほぉっ!?」

そんな最中にヒオの唐突な質問を受けたレンは、奇特な声をあげて思わず前のめりになり、喜劇の舞台よろしくずっこけそうになった。

「な、なんだよそれ。どこからそんな話出てくるんだよ……」

「人の噂は千里を走る……なーんてのは嘘だが、ピコがこの前、そっちに遊びに行ったときにレンが少し元気なかったって話を聞いたもんでな。まあ、確証はないしそんな噂は実際にないさ。からかって悪かった」

「レン、それ本当?」

傍らに佇んでいた花が、心許なげに訊ねた。淡白な質問だが、微かに声が揺れている。

「ないない、それはないから……」

頭を振って疑惑めいた節を全力否定するレン。しかしそんな疑念が抱かれても仕方ないことが今までにあったのだから仕方のないことだ。

『また会おうね、レン。おやすみ』

突如として脳裏をよぎる彼女の姿。

『だったら、間接じゃなくて、直接キス、してみる?』

飲みかけのコーラを半ば強引にぶん取って間接キスをしておきながら、さらに悪戯っぽく告げてきた、あの人。

――そういえば、あの人は来るんだろうか。

名前すら聞いていない、リンの姉と名乗った女性。

会いたい、そういう気持ちはレンにも大いにあった。しかし現実、間接キスを果たした夜から、彼女の姿は一切見かけてはいない。一体にして普段はどこで何をしているのか、レンには知る由もなかったのだ。

いや、一応足取りをつかもうとする手立てがあることはわかっていた。ミクとは以前から面識がある様子だったから、ミクに訊ねれば良いのだ。しかし実際それは大きく憚られ、実行に至らなかった。ミクは普段から呆けているようで妙に鋭いから、少しでも彼女への執着の素振りを見せれば勘付かれる。それに、なにか彼女について詮索をしてしまうと、霧のように消えていなくなってしまいそうで、怖かったのだ。

あの人と一緒に居ると、変調をきたす。しかしそれ自体は不快なものでもなんでもなく、むしろレンにとって心地がよかった。

また会いたいという気持ちが会えない日を重ねるごとに大きく募っていく。

表向きには認めていないが、レン自身、もうそんな気持ちの正体などわかっていた。

――いや、今は考えるのはよそう。

素直に友人たちとの集いも楽しめなくなるし、歌にも集中できない。

しかしこのときレンは気付いていなかった。リンとLilyの二人が、いつしかルカ、妹ルカ、GUMIたちの輪から外れて会場からいなくなっていたことに。
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TM box及びSoundCloudで細々とカバーもどきな作品創らせてもらってます。アイコンはNaiさんにお願いして書き下ろしていただきました。

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