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第3話「ボーカロイドの集い・カラオケ大会」(4)

「レン!」

階下からの呼び掛けに、レンは弾かれたように、声のしたほうを見やる。

屋上に昇ってきたピコ、花、ヒオ、3人の少年たちが足早にレンのもとへと駆け寄ってくる。

彼らの手には和紙に包まれた弁当箱。1人1つずつ携えていたが、ヒオの手にだけは2つある。

「探したぜー。レン、一回戦が終わったらすぐにどっか行っちまうんだから。腹へっただろ、飯にしようぜ、飯」

と、ヒオが笑顔で綺麗に包まれた弁当箱を1つ差しだしてくる。

「ああ、うん」

レンはそれをぎこちない動作で受け取った。

がくぽの粋な計らいで参加者分全て用意された、弁当屋の昼食だ。

「レン君、何かあったのかい? 少し元気がないように見えるけど」

ピコが訝しげにレンの顔を覗き込む。

「そういえば、さっき屋上階段をのぼってくる途中でリンちゃんとすれ違ったんだけど、何かあったのか? お前、よくリンと喧嘩してるだろ。ダメだぜ、女の子泣かしちゃー?」

けらけらと冗談めかして笑うヒオに、

「リン、だって?」

レンの声音が高まった。

「挨拶した程度で、話っていう話はしてないがな。なんだ、やっぱり何かあったのか?」

「い、いや……そうじゃないんだけど」

――おかしい。

辻褄が合わない事の成り行きに、レンは心の中で首をかしげる。

屋上にいたのは、レンと、リンの姉を名乗る彼女と二人だったはずだ。リンの姿はなかったし結局会うこともなかった。

ヒオ、ピコ、花の3人が駆け上ってきたのは、彼女が走り去ってから間もなくのことだ。タイミングとしては入れ違いに近い。

――屋上まで昇りかけて、引き返した?

果たして、そんなことがあるのか。偶然にしては出来過ぎている。しかしヒオたちがわざわざ出来た嘘をつくとは考えられない。

――待て、そもそもあの人はどうやってここに来た?

レンはミク、リン、ルカ、妹ルカと共に、ルカの運転する車で来たのを覚えている。そこに、彼女は同席してはいない。

おまけに、選手としてはおろかギャラリーとしてもボーカロイドたちの中に紛れている様子もなく。わざわざ赴くメリットは?

「レン、大丈夫?」

少し心配そうに顔を覗き込む花を前に、レンは我に帰る。

「ああ、うん、ごめん。ちょっと考えごとしてた。なんでもない」

「おいおい、昼の部もあるんだぜ? そんな調子で大丈夫かよ?」

髪をくしゃくしゃと掻きながら、苦笑いを浮かべたヒオが屋上の隅っこのパラソルの下へと。ピコ、花もそこに続き、レンも後を追った。





昼からの部は、各々第二回戦からの開始とされ、初戦を突破した者たちの対戦が執り行われた。

臨席者は昼食を挟んで眠気に見舞われようものだが、がくぽの司会、参加者たちの熱唱とで会場には熱気がたちこめ、勢いは前半戦から衰えるばかりか、ますます盛り上がっていく一方だった。

「盛り上がってるわね」

「そうですわね。来た甲斐もあったというもの」

犬猿の仲と呼ばれ出して久しい、巡音ルカと結月ゆかりの両者が隣り合って座り、舞台を眺めていた。

「ルカさん、今回はあなたに勝ちをお譲り致しましたが、次回はワタクシに勝利の女神がほほ笑みますわよ」

「そんなマンガみたいなクッサい言い回ししないで、普通に次こそ私が勝つって言えばいいのに」

「残るはCブロックでのレン君とLilyさんの対決ですわね。どうなりますことやら」

「もしレンが勝てば、クリプトン一家での優勝争いになるわね。Aのリン、Bの私、Cからレン。牛肉は私たちのものになることが確実に」

「本当に食い意地が旺盛ですわね。牛みたいな乳をしているから、牛の肉も気になるのですか?」

「私はアンタと違って心が広いから、今回は聞かなかったことにしてあげるわ」

「あ、ルカさん、ゆかり、レン君とLilyさんのが始まるみたいです」

笑顔で語らいながらも静かに火花を散らせはじめた2人を尻目に、1人のボーカロイドが割って入る。

ゆかりの隣に腰掛けるボーカロイド、IAだ。

「あらいけない。醜い争いに興じている場合ではございませんわね」

「誰の所為で醜い争いになろうとしてんのよ」

ルカのツッコミは無視された。

舞台上では既にレンとLilyがのぼり、がくぽの司会で順調に進行していく。

「レーンー、カラオケより夜のプロレスの勝負しようよ。あたしそっちなら絶対に負けないもんねー」

「ぐああああ、ギブギブギブ!! Lily姉、首が首が首がっ……!!」

ふざけてるのか、いちゃついてるのかよくわからない2人の戯れ合いに、会場からはブーイングやら笑いやらが巻き起こり、

「はいはい、リア充爆発するでござる。それは大会が終わった後にいくらでも興じるがいいでござる」

と、がくぽが冷静に2人組を引きはがす。

「あら、こういうときリンちゃんなら「レンが嫌がってるから放しなさいよ!」って喰ってかかりそうに思うのですが、おとなしいですわね」

当のリンはといえば、席に座って観戦しているといった様子だった。声を荒げる様子がなければ、席を立ちあがろうとする様子さえもない。肘をついて呆然と前を眺めている。

隣席には彼女と交遊のあるGUMIがいたものの、会話を弾ませている雰囲気もない。

「あの子、今日は一回戦過ぎたあたりから様子がおかしいのよ。一回戦後に会場を抜けていなくなってから、昼の休憩時間に戻ってきたのはいいけど30分ほど経ってからようやくだったし、それからはあの子にしては口数がめっきり少なくなってるし。あと、レンも少し変なのよね」

「レン君、舞台での様子を見る限りは普通だと思うのですが……」

「会場の雰囲気に宛てられて少し緩和してるんだと思う。あの子、真面目だからわりと行動はきっちりしてるんだけど、昼の部の開始時間ギリギリだったのよね、戻ってきたの。リンを探しに行ってたみたいだから、多分そのときに何かあったんじゃないかと思うんだけど。話しかけても生返事なときがあるし」

「恒例の喧嘩じゃないんですか?」

ゆかりが首をかしげる。実際この2人の喧嘩は珍しくない。

「単なる2人の喧嘩なら、私たち関係ない人相手であればどちらも普通の態度してるのよね。ほっとけば時間が解決するから、それなら心配もないんだけど」

壇上では、レンが既に歌い始めていた。熱唱系のアニメソングだった。

ディスプレイに映し出されるPVと、パワフルなレンの歌唱によって、会場のボルテージはさらに高まりを見せる。

やがてその歌唱が終わりを迎えて、表示された点数は91点。高得点の結果に、拍手と歓声が沸き上がる。

「次はLilyさんだね、ゆかり」

ゆかりの隣の席で大人しく観戦していたIAが、少しばかり高い声音で告げる。

「嬉しそうね、IA」

普段は物静かな彼女なのだが、このときばかり少しテンションを高める姿にルカの表情も併せて緩む。

「IAはLilyさんと仲が宜しいですからね。そういえば彼女、1回戦では96点の最高点を叩き出してますわよね。やはり、マスターの調整なしで競い合うこの場では、彼女が優勝候補最有力とみて間違いないですわね」

「私のこと忘れてない?」

「ルカさんは、リンちゃんとLilyさんもしくはレン君の引き立て役になるオチが決まってますわね」

「てめぇ、コンクリート詰めにして東京湾に沈めたろか」

「湾に沈むのはあなたのほうですわ」

「ル、ルカさんもゆかりも落ち着いて……!」

『恒例の喧嘩』をはじめるルカとゆかりと、ついでに宥めに入るIAを余所に、大会は着々と進行していく。

レンに次いでLilyがハードロックを絶唱し、最終的に95点を叩き出す。

「ちぇー、Lily姉の勝ちか。やっぱ巧いな、敵わないや」

「レンも良かったわよ。プライベートでカラオケデュエットとかやってみたいわね、レンとは」

レン、Lilyの対決は和やかに幕を迎え、2人が舞台から降りて行く。

「えー、これで二回戦は全て終了したでござる。次は準決勝でござるが、これは少しルールが違うでござるよ。Aブロック、Bブロック、Cブロックで勝ち残った3人それぞれに歌ってもらい、上位2人が決勝で直接対決でござる。で、最下位だった人は残念でござるがここで敗退でござる」

マイク片手に司会としての役目を全うしていくがくぽを尻目に、

「最下位だった人は残念でござるがって、ルカさんのこと言ってるんですわね」

「二回戦で私に負けた雑魚は黙ってろ」

刺々しいやり取りが、舞台の下で続く。





ルカとゆかりが相変わらずの犬猿ぶりを発揮する一方で、準決勝の組み合わせを前に好調に会話を弾ませている2人組の姿もあった。

ミクといろはの2人だ。ミクはコーラを片手に、いろははお茶入りのボトルを片手に座席に腰掛けてくつろぎながら、互いに雑談に花咲かす。

「がくぽが恐れてたリンとLilyの対決が現実になったなー」

「まあ、間にルカ姉がいるからね。まだ直接対決ってわけじゃないだろうけど、ルカ姉が敗退したらマジであの2人のガチンコってことになっちゃうってわけで」

「それにしても、ルカやLilyはわかるが、リンの奴、マスターの調整なしでようここまで健闘するもんやな」

「やー、あの子はデキる子だからね。若いと侮るなかれ、ってやつ?」

「これは決勝も楽しみやな」

「それにしても、リンは大丈夫なのかな?」

けらけらと笑ういろはに対し、ミクは独り言のように。

「なにがや?」

「や、なんでもない。ぼちぼち次が始まる感じだし、そっちに集中しよう」

ルカが気付いていたように、ミクもまた、リンの奇行に何も感じぬほど鈍感ではなかった。

――まあ、何があったか、ある程度は想像できるんだけどね。

これはもしかすると、お姉さん分として人肌脱いであげたほうがいいかもしれない。そんな保護者めいた気持ちがミクの頭の片隅に咲いた。

――でもまあ、ひとまずは準決勝の成り行きだけ見守らせてもらうよ。頑張れ、リン。

「では準決勝、はじめるでござる。リン殿、ルカ殿、Lily、舞台へ集合するでござる」

ミクの想いを余所に、がくぽの一声により、準決勝に残った強豪三名が講壇上に集う。

「ルカ姉とここでやり合うことになるなんてね」

「どっちが勝っても家で焼き肉決定ね」

「あのー、リンにルカ姉さん、あたしの存在を忘れてない?」

内輪で盛り上がるリンとルカに、ハブられてわざとらしく肩を落とすLily。

「姐さん、姐さん」

そんなやり取りをのほほんと見守っていたミクが、隣席のいろはの肩をポンポンと叩く。

「なんや、ミク」

いろはは怪訝そうに声音を上げ、首を少しばかりかしげた。

「決勝は確か勝敗の決し方が違うんだっけ?」

「せやで。体育館の外でくつろいどったときに説明したやろ。がくぽ、ミク、ウチの3人で勝者を選考するんや。決勝での勝者をこれまでと同じように決めるのも味気ないっていうがくぽの考えに、ウチも賛同したんや。言うたやろ、お前の協力が要るって。あっ、お前、それ誰にもチクってないやろな?」

「もちのろん」

「ウチは例え家族のゆかりやIAが決勝に立ってても公平な判断をするで。お前も、なんだかんだでそういう奴やろ。だからお前に頼んだんや。決勝のときは頼むで」

「やー、この分だと、どうしてもリンかルカ姉のどっちかを決勝で勝敗つけさせないといけなくなるんだよなぁ。うーん、気が重い」

リン、ルカ、Lilyの3名のうち、スコア最下位の者1人が脱落するこのルールでは、どのような結果であろうと一緒に暮らすリンかルカのどちらかが必ず勝ち上がることになる。さらにLilyが脱落する結果になれば、同じ一家の2人のどちらかを敗者にしなければならない。

信頼のうえで任された大役ではあるが、だからこそ責任は重大だ。片方を選べば、選ばれなかった片方もいる。

ミクは少しだけになったコーラを一気に流し込んだ。時間が経って酸が抜けているのか、喉を突くような強烈な酸味はしなかった。

そうこうしている合間に、一番手としてリンが歌う。叩きつけるような強烈なハードロックだった。

「リンの奴、飛ばすなー。あんな曲歌ったら決勝で喉が保たんのちゃうんか?」

おまけにキーが高くてテンポも早い。曲としてのインパクトは強くても、まともに歌えば喉を痛めてもおかしくないような楽曲だった。

いろはの心配を余所に、リンは最後まで見事に歌いあげ、出した記録は93点の高いものだった。

二番手として踊り出るのはBブロックを突破したルカだった。

ルカが歌うのは、愛する人との死別を謳ったバラードだ。声質のアダルトさが売りの1つとも言われる巡音ルカらしい選曲だった。

「さすがルカやな。アイツの声でこの手の歌は堪えるわ」

「ルカ姉、リンやLilyが得意にしてる激しい曲は苦手だけどこういうのは得意だって言ってたしね」

「持ち味を最大に活かすって感じやな。曲の所為でちょっと会場がしんみりしてしまった気がするけど、こういう曲もええわな」

いろはの指摘通り、激しい曲でボルテージを高めた館内が、離別の歌で少しばかり静まりかえってしまっている。だがそれは決してルカの歌が不味いからではない。切ない曲の雰囲気を崩さぬよう、会場に集ったボーカロイドたちが併せているだけだ。

そんなルカが叩き出したスコアは90点。上々な成果だったが、一番手のリンには少し届かない。

「リンの決勝進出が確定したね。これで2位以上は決まってる」

「後はLilyがどうなるかやな。でもアイツなら余裕で90はオーバーするやろ。半ば決まったも同然やな。ルカには悪いけど」

いろはの言葉通り、準決勝のトリを担ったLilyは95点を叩き出して堂々の1位を飾って決勝進出を決めた。

「えー、ではこれで、決勝戦でやり合う2名は決まったでござるな。リン殿、Lily、この両者による決勝戦を、20分後に執り行う。それまで、しばし休憩でござる」

「ちぇー、私はここまでか。リン、ここまで来たら優勝よ、優勝」

ルカに背中を叩かれて、リンは「う、うん」と小さく頷いた。

「姐さん、ちょっと席を外すね」

「ええけど、始まる前にはちゃんと戻って来るんやで」

少しばかり嗜めるように告げるいろはの声を背に受けながら、ミクは舞台から降りてきたリンのもとへと駆け寄った。

「リン、少し時間ある?」

「ああ、うん。大丈夫」

傍らにいたルカが首をかしげる所作をみせたが、ミクは軽く手で制した。

「がくぽ、少しリンを借りるよ。もし20分経って戻ってこなかったら、Lilyを先に歌わせておいてあげてね」

「相わかった。何事かは敢えて訊かぬが、しかしなるべく円滑に進めたいから、早く戻ってくるでござるよ」

主催者がくぽの了承を得たのを確認したミクは、リンについてくるように促し、決勝前の興奮に賑わう体育館内から出て、隣接する校舎の中へ。道中、互いに会話はない。ミクもリンも終始無言だった。


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