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第3話「ボーカロイドの集い・カラオケ大会」(6)

どんなに楽しい宴にも、必ず終わりはやってくる。数十名のボーカロイドたちが集った、がくぽ主催によるカラオケ大会はリンの優勝によって幕を閉じ、参加者たちはそれぞれの家路についていく。一人、また一人と会場から姿を消していき、最終的に残ったのは二人だけだ。

がくぽからは「あまり長居はしないで欲しいでござるよ」と声を掛けられて。

賑やかな歓声に包まれっ放しだった廃校舎体育館も、今やすっかり静寂に浸されている。こうして見やれば大会の賑やかさがまるで夢のようだ。残された二人は、数歩分の距離を挟んで、向かい合って佇んでいた。

時刻は夕刻の4時半に差し掛かろうとしていたが、日の長い時節。なお日は高く、空は明るんだままだ。

向かい合ったまま、二人は言葉を交わそうとしない。視線を逸らし合ったまま、気まずい時間だけが流れていく。しかしいつまでも沈黙の時間を保ち続けるわけにはいかない。

「あの……」

「あのさ……」

閑静な状況を打ち破ろうとした二人の声が重なって、虚しく体育館に吸い込まれていく。広い館内に、再び無音が訪れる。

「ごめんね……騙してたつもりじゃなかったの」

改めてこの気まずい空気を打ち払おうと先に口を開いたのは『彼女』のほうだった。

「マスターとの収録で、この成長した姿のときの声が欲しいからって理由で変わって歌ってたところに、偶然、レンが来たものだったから……」

「じゃあ、どうして最初からそう言ってくれなかったんだ。いや、本当のことを言うと、ここの屋上で会ったときから薄々そうじゃないかって思ってはいたんだ。でも、どうして黙ってたんだよ」

レンの声は、責め立てるような強いものではない。とはいえ、公言された彼女の正体への戸惑い、さらには仄かに抱いていた恋心までも踏みにじられたようで、明らかな動揺が滲んでいた。

「それは……」

口ごもるリンに、レンは一歩踏み込んだ。

「リン、オレはどうこう責める気はない。そんなことしたってお前の優勝の余韻を汚すだけだしな。決勝でのリンの歌、すごく良かったし。だけど、一つ訊いておきたいんだ」

レンは少し合間を挟んで、

「今日の屋上での、その……アレ、からかう気でやったんじゃないんだよな?」

「キスのこと? 馬鹿言わないでよ。伊達や酔狂であんなこと、出来ると思う?」

リンは少しはにかみながらも、きっぱりと告げる。

「いや、そりゃ……ああ、うん、まあ、そうだよな」

「言ったでしょ。こういうのって、好きな人にしなくちゃダメだって」

その言葉が意味するところを、この期に及んでわからないと白を切るほどレンは朴念仁でなかった。それはいわゆる愛の告白に他ならない。

だから、返す言葉に戸惑って、しばし黙りこくっていると、

「もう、レンってば。何か言ってよ。アタシばっかり一方的にアプローチしてて馬鹿みたいじゃない」

リンが少しばかり頬を膨らませて不服そうに。

「リンが馬鹿なのは当たってるじゃん」

「あー、レン。普通そういうこと言う!? ひどいなぁ、アタシ大真面目に言ってるのに。レンの大馬鹿! もう知らない!」

茶化されてとうとう怒った彼女は背を向けて、体育館への出入り口へ、つかつかと歩んでいく。レンはその背中に向かって、

「あ、ちょっと待って、リン」

呼び止める声にリンが振り向けば、

「その……今のその成長した恰好。可愛いと思う」

ポツリ、とたどたどしく呟くように、告げた。

「可愛い」という言葉を向けられた当のリンは、刹那の間、足を止める。やがて振り向いたその顔は、照れるどころか笑みが浮かんでいた。

「なによ、レンってば。思う、なんて無責任なこと言わずに、素直に可愛いって言えばいいのに」

責めるような言葉遣いではあったが、怒気の孕まない、むしろ笑い入り混じる明るい口調だった。リンの笑顔に感化されて、レンもまた表情が綻ぶのを自身でも感じた。

「だって、可愛いなんて言い切ったらリンは調子に乗るだろ」

「レンってば、素直じゃないんだから」

「リンほどじゃないと思うけど」

「もーう、アタシは関係ないじゃない」

リンが両手を振り上げて抗議した。話をすり替えられて自身ほどではないと言われてはたまったものではない。

しかしその直後に不服そうにぶつくさと呟いたリンの言葉は、レンを再び驚かせるには足るものだった。

「あーあ、せっかくレンを驚かせようと陰ながら練習した曲、決勝で披露したのになー」

「え、なんだよそれ。オレのためなの?」

ギャラリーから大喝采を浴び、見事に3人の審判から文句なしで判定をいただいてLilyから勝利をもぎとった決勝での一曲。その経緯を聞いてレンは思わず耳を疑うばかりだ。その歌唱はレンにとっても文句なしで絶賛の一言に尽きた。歌においてのリンの実力はレンなりにもよくわかっている。しかし決勝での彼女は、そのわかっているものを大きく越えて、ギャラリーに入り混じるレンの耳を虜にしていた。

「そうだよ、レンのため。元はマスターから歌ってみてって提案されて聴かされた曲でもあったんだけど、結局違う曲になって。でもアタシはあの曲が耳に残ったから、歌ってみようって思ったんだよねー。どう? 大人びたアタシの声は?」

「どうって言われたって……凄かったとしか言えねぇよ」

「ふーん、それだけ?」

リンは不満げに粘りつくような視線を向けた。真っ向から見返すことができず、レンは気不味く視線を逸らす。

「あーあ、レンってば冷たいなぁ。そんな素っ気ない態度するんなら、もうレンの前でだけはこの恰好するのも歌うのもやめようかなぁ」

せっかく頑張った決勝での歌が「凄かった」の一言だけで済まされては酷く不服なのだろう。リンは大袈裟に落胆した様子でそっぽを向いてしまう。

「良かった、良かったって! その、いつものリンとちがって落ち着いてて、でも声に芯があって意志を感じるというか、やっぱりさすがリンだなぁって。その、凄く綺麗だった。聴き惚れてた」

慌てて取り繕ったレンに対して、リンの取った態度はしばしの沈黙だった。沈黙を挟んで、やがて肩を揺らして声をあげて堰を切ったように笑い始めた。

「あはははははは! レンってば必死なんだから! ごめん今の凄く面白かった」

なんとか心の底から絞り出した精一杯の賛辞の言葉を爆笑の下に沈められて、レンは顔が熱くなっていくのを感じた。

「でも、綺麗とか聴き惚れたなんて言ってくれたの、凄く嬉しかった。ありがと」

と、リンは満足げに微笑んだ、

成長したリンを前に、レンは頭をかく。ああ、コイツには多分一生敵わないや、と諦めにも似た想いがよぎる。まるで掌の上で転がされているかのようで。

「さ、帰ろ? ミク姉たちをいつまでも待たせてるわけにもいかないし」

先を行ってこの場を後にしていくその背中。

「リン、オレだって……」

ぽつり、と口をついて出た言葉に気付いた彼女が振り向いたが、

「いや、なんでもない。帰ろう」

それ以上、かける言葉もなく。レンは訝しげに首をかしげるリンに追いすがった。





「あーもう、じれったいなーーーもぅ!! リンの馬鹿! どうしてもっと強く押しにいかないかな! レンもレンで茶化そうとしない!」

リンとレンとが談笑している体育館の外側で、Lilyが封を切った缶ビールを片手に地団太を踏む。

「まあ、それが若いということでござる」

隣でがくぽが優雅に扇子を仰ぐ。

「そういえばLily、大会開始前にリン殿と二人でどこかに行ってた様子だったが、何を話していたでござるか?」

「別に。ただリンがじれったいから背中を押してやっただけよ。せっかく御膳立てしてやったのに、あれじゃあなぁ……」

Lilyがはぁ、と肩を落として大きく溜め息をついた。

「さて、帰って晩酌でもやろやろ。がく兄、帰り道の運転もよろしくねー」

「あー、まだすぐには出ぬでござるからな。拙者、主催者故いろいろとあるのでござる」

缶ビールをワイルドに口に流し込みながら小さくなっていくLilyの背中に向かって言い放ったがくぽだが、そんな言葉は彼女に届いていない。がくぽの言葉は夕刻を迎えようとする空へと虚しく吸い込まれる。

「ま、最終的に円満に締めくくられて拙者としては大満足でござるよ。またこういう機会があればやりたいでござる」

いまだ明るい夏空は、今のがくぽの心象を表すかのようにさんさんと輝いていた。


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TM box及びSoundCloudで細々とカバーもどきな作品創らせてもらってます。アイコンはNaiさんにお願いして書き下ろしていただきました。

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